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鹿児島地方裁判所 昭和41年(ワ)217号 判決 1967年7月11日

原告 株式会社小原製作所

右代表者代表取締役 小原達郎

<ほか一〇名>

右一一名訴訟代理人弁護士 山下兼清

被告 九州パーケット建材株式会社

右代表者代表取締役 藤田博雄

右訴訟代理人弁護士 和田久

主文

1  被告は、原告株式会社小原製作所に対し別紙第一目録記載の建物(別紙図面の「甲建物」)を明渡し、かつ金三四万円および昭和四〇年九月以降右明渡ずみに至るまでの一箇月金二万円の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告小原達郎、同小原郁子、同小原俊郎、同中島昌子、同浜田妙子、同中上矩子、同小原鉄郎、同小原紀代子、同小原隆子、同小原ミ子に対し別紙第二目録記載の建物(別紙図面の「乙、丙、丁の建物」)を収去して同第三目録記載の土地(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(イ)の各点を順次直線で連結した土地の部分)を明渡せ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  この判決は、第一、二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文第一、二、三項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告株式会社小原製作所(以下、単に「原告会社」という。)は、昭和三四年八月一〇日被告との間で原告会社所有にかかる別紙第一目録記載の建物(別紙図面の「甲建物」)につき次のような賃貸借契約を締結した。

(一)  賃料   一箇月金二万円

(二)  支払方法 毎月二五日払い

(三)  存続期間 昭和三四年一〇月一日より昭和三七年九月三〇日までの三年間

(四)  特約   右期間中、原告会社は被告にその事業に必要な製品乾燥用地として約四九五・八六平方メートル(約一五〇坪)の土地を無償で使用させ、かつ右用地内に被告が製品乾燥炉、事務所および休憩室を建築することを認めること。

二、右賃貸借契約はその後更新されたが、被告は昭和三九年四月以降昭和四〇年八月までの合計一七箇月分の賃料を滞納したので、原告会社は昭和四〇年八月三一日付書面をもって被告に対し同年九月八日までに前記滞納賃料を支払うよう催告したが、被告は右期日までに右滞納賃料を支払わなかった。

三、そこで、原告会社は、同年九月一〇日被告に対し右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示は翌一一日被告に到達した。

四、ところで、被告は、原告小原達郎、同小原郁子、同小原俊郎、同中島昌子、同浜田妙子、同中上矩子、同小原鉄郎、同小原紀代子、同小原隆子および同小原ミ子の共有にかかる別紙第三目録記載の土地(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(イ)の各点を順次直線で連結した土地の部分)の上に同第二目録記載の建物(別紙図面の「乙、丙、丁の建物」)を建設し、パーケット工場として使用し今日に至っている。

五、よって、原告会社は被告に対し別紙第一目録記載の建物の明渡しと、昭和三九年四月以降昭和四〇年八月までの延滞賃料金三四万円および同年九月以降右明渡ずみに至るまでの一箇月金二万円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求める。また原告小原達郎外九名(原告会社を除く)は、民法第二五二条但書の規定に基づき被告に対し別紙第三目録記載の土地の上に建設してある同第二目録記載の建物の収去と右土地の明渡しを求める。

と述べ、被告の後記抗弁に対し

一、被告が別紙第二目録記載の建物を同第三目録記載の土地の上に建築所有することを原告小原達郎外九名の長兄である訴外小原宗隆が承諾していたことは認める。しかし、右土地の使用は、本件賃貸借契約の存続期間中にかぎり認めたものであるから、右契約が上記のとおり解除された以上、被告はもはや右土地を使用することはできないものというべきである。

二、被告主張の解除権消滅の抗弁および権利濫用の抗弁は、いずれも否認する。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの連帯負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項ないし第四項の事実は、認める。

と述べ、抗弁として

一、(解除権消滅の抗弁)

被告は、昭和四〇年九月九日催告にかかる延滞賃料を原告会社代表者小原達郎方に持参したところ、同原告は催告期間である同年同月八日を徒過したことを理由にその受領を拒絶した。しかし、催告期間を徒過したのみでは原告会社は単に解除権を取得するにとどまり、現実に右解除権を行使しない間は依然として本件賃貸借契約は存続するものであるから、その間に被告において債務を履行することを何ら妨げるものではない。従って、本件のごとく催告期間経過後、契約解除の意思表示前に、債務者が履行の提供をしたときは、債権者たる原告会社もその受領を拒むことができず、解除権を行使できないものといわなければならない。

二、(権利濫用の抗弁)

仮に前記主張が理由がないとしても、左記のような事情の下では右解除権の行使は、権利の濫用である。すなわち、被告が賃料を延滞した原因は、被告の経営不振と、さらに昭和三七年九月末頃本件賃貸借契約の更新に際し原告会社が一挙に賃料を金五万円に増額請求し、右増額に関し原告会社と被告との間に協議調わず、原告会社において被告に対し賃料の請求ないし取立てをしなくなったことによるものであり(従来、賃料は原告において取立てていた)、その後も原告会社の催促があれば、被告は努めて賃料を持参支払っていたのであり、また催促がなくとも被告に余裕あり次第原告会社に持参していたのである。そして、催告期間を僅かに一日徒過したのみで延滞賃料を持参し、その後も被告はいささか経営も好転し、毎月その月分の賃料を供託しているのである。

三、(使用貸借の抗弁)

被告は、別紙第二目録記載の建物の建築につき当時同第三目録記載の土地を使用管理していた原告会社の代表取締役小原宗隆(原告小原達郎外九名の長兄)の承諾を得ていた(前記賃貸借契約の(四)特約参照)。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

理由

一、請求原因第一項(賃貸借契約の締結)および同第二項(催告期間内に延滞賃料の支払いがなかったこと)の事実は、当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告会社は、特段の事情がないかぎり、民法第五四一条の規定により本件賃貸借契約を解除できるものといわなければならない。

被告は、催告期間である昭和四〇年九月八日の翌九日に原告会社代表者小原達郎に対し延滞賃料金三四万円を提供したから、右解除権は消滅した旨主張するところ、≪証拠省略≫によれば、被告は本件賃貸借契約の更新の頃から経営状態が悪く屡々賃料の支払いを怠っていたが、原告会社から昭和四〇年八月三一日付書面をもって昭和三九年四月以降昭和四〇年八月までの合計一七箇月分の延滞賃料を同年九月八日までに支払うよう催告を受け(この事実は当事者間に争いがない)、しかも株主の一人である訴外桑水流兼雄からも家賃を滞納するなどということはよくないことだから資金繰りですぐにも支払うよう忠告を受けておりながら、履行に誠意をみせず、催告期間の翌日に右桑水流から叱責を受けてようやく被告の会計担当者の訴外奥宗喜が一七箇月分の延滞賃料金三四万円のみを遅延による賠償金も附加せずに原告会社代表者小原達郎方に持参したところ、同人から弟の原告小原鉄郎が家賃の受領を扱っているから右鉄郎方に持参するよう言われ、やむなく右鉄郎方に赴いたところ右鉄郎の母の原告小原ミ子から素気なく受領を拒絶されたこと、そこで右奥はその帰途鹿児島地方法務局に立寄り右金三四万円を弁済供託したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、被告は未だ債務の本旨に従った履行の提供をしたものと解することはできないから、上記解除権は消滅したものということはできない。なるほど解除権が発生した後においてもその解除前に債務者である被告が債務の本旨に従った履行をするならば、右解除権が消滅することは被告の主張するとおりであるが、上段判示のとおり被告は毎月二五日に支払うべき賃料を昭和三九年四月から昭和四〇年八月までの一七箇月間全然支払わず、しかも催告期間を漫然と徒過したその翌日に遅延利息も附加せずに単に一七箇月分の延滞賃料金三四万円のみを原告会社に提供したにすぎないのであるから、被告が債務の本旨に従った履行をなしたものということをえないのは、多言をまたずして明らかである。

二、請求原因第三項(解除権の行使)の事実は、当事者間に争いがない。

被告は、右解除権の行使が権利濫用である旨主張するが、上段判示の事実に徴すれば、右解除権の行使をもって権利の濫用であると解することはできない。証人奥宗喜は、被告が賃料を滞納するに至った原因の一に賃貸借契約更新の際の条件改訂、殊に賃料を一箇月金二万円から金五万円に値上げ要求され、被告がこれに応じきれず、そのため従来賃料の取立てに被告方を訪れていた原告小原鉄郎が来なくなったことがある旨供述するけれども、本件賃料債務が取立債務ではなく持参債務であったことは同証人が自ら供述するところである。しかも、証人桑水流兼雄の証言によれば、被告の経営状態が非常に悪く、そのため賃料の支払いを故意に怠ったことが認められるから、右事実と上段判示の事実を綜合すれば、被告の右主張は理由がないこと明らかである。

三、請求原因第四項(別紙第三目録記載の土地が原告小原達郎外九名の共有に属すること、被告が右土地の上に乙、丙、丁の建物を建築所有していること)の事実は、当事者間に争いがない。

被告は、右土地の使用につき原告会社の代表取締役をしていた小原宗隆の承諾を得ていた旨主張し、右承諾の事実は当事者間に争いがないが、右にみたとおり右土地は原告小原達郎外九名の共有に属する土地であるから、右小原宗隆がその使用を許諾したとしても、原告小原達郎外九名がその使用を許容しないかぎり、右土地を使用することができないことは当然である。のみならず、右土地の使用も本件賃貸借契約が存続する期間許容されたにすぎないことは、本件賃貸借契約の内容から明らかであるから、被告の右主張は理由がない。

四、以上のしだいであるから、被告は原告会社に対し別紙第一目録記載の建物(別紙図面の「甲建物」)を明渡し、かつ延滞賃料金三四万円並びに昭和四〇年九月一日以降同月一〇日までの一箇月金二万円の割合による賃料、および同月一一日以降右明渡ずみに至るまで一箇月金二万円の割合による賃料相当の損害金の支払いをなすべき義務があるものというべきである。また被告は原告小原達郎外九名(原告会社を除く)に対し別紙第二目録記載の建物を収去して同第三目録記載の土地を明渡すべき義務があること明らかである。

よって、原告らの本訴各請求は、いずれも理由があるから正当として認容することとし、民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉野衛)

<以下省略>

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